現代は、特に東京という街は、情報がとにかく多い。
人も、文字も、デザインや絵や音楽も、いたるところに充満していて、それはつまりインスピレーションが山ほど湧くということでもある。
否が応でも毎日たくさんのインプットをしているのだから、書きたいことは尽きない。
何気ない女子高生の会話が小説のネタになったり、ショーウィンドウのマネキンの着こなしがものすごくツボだったり、ふと目にとまった広告にあっと驚くような発想があったり。
東京は色んな刺激があっておもしろい。
でも、気を付けないといけないのは、家の中にこもって創作活動にのめり込んだ直後だ。
書いている最中は、ものすごく繊細なところまで気を配って、これでもかというほど想像力をフル稼働している。
よく見えるように瞳孔をかっと見開いているというか、インスピレーションを取り入れる触覚を超敏感にさせているというか。
とにかくMAX状態なのだ。
そんなわけなので、そのまま街に出ると非常に危ない。
感受性をフルに開いたままでいると、たちまち情報がなだれこんできて、息ができなくなる。
ちょっと移動しただけで、ものすごく疲弊してしまう。
しかも、意に反して、脳は水を得た魚のように働きまくるので、思考が止まらなくなって、頭が氾濫状態になってしまうのだ。
用事を済ませて帰る頃には、音楽を聴くのもしんどくて、本すら読めなくなっている。
今日もそんな状態に陥って、疲労困憊でフラフラしながら、あとひとつだけ残った買い物を済ませるべく、とある無印良品の店舗に入った。
シンプルな品揃えに少し安堵しながら、インテリア用品のディスプレイを眺めて回っていたら、こんな壁の一角に目がとまった。
このアイデアに、ビビッときた。
よく知られた文庫本ばかりだが、全部カバーが外してある。
シンプルで、古本屋みたいな趣き。
古紙のような色合いが、木製のボックスに馴染んで心地良かった。
飽和状態の頭で書店に入るのは、雑誌や本の表紙が所狭しと並んでいて目が回るけれど、これなら、と思った。
そこで早速、帰宅してから、手持ちの文庫本のカバーを、片っ端から外してみた。
これ、いい!
まるで自分の部屋が古本屋になったような。
本が、文字だけのほんとうの姿に戻ったような。
何だかすごくしっくりきて、しばらく本棚の前にしゃがみこみ、タイトルを眺めたり、あれこれと手に取ったりして夜を過ごした。
活字離れとはよく言うけれど、最近は、InstagramやLINEスタンプを筆頭に、コミュニケーションはどんどん色彩豊かになっている。
絵やデザインが好きな私としては、とっても楽しい時代の変化なのだが、時々やっぱり、色やビジュアルが多すぎて目も頭も疲弊してしまうこともある。
そういうとき、緩やかな茶系の色をした古本屋や、色のない文字だけの世界に戻ってくると、頭がクリアになり、きちんと言葉だけで、ものごとを考えられるようになる気がする。
ずらりと並んだ本を、表紙のデザインに左右されることなく、真摯に文字だけと向き合って選べるというのは、なかなか贅沢なものだ。
今の時代、文字だけの芸術は、案外貴重な文化財なのかもしれない。
色彩豊かな世界も楽しいけれど、時々は、混じりけのない文字だけの世界に帰ってみよう。
***
情報との付き合い方って結構難しいものです。外からの情報と、自分の思考とのバランスについても書いています。
artinspirations.hatenablog.com
***
そうは言ってもやっぱり、本の表紙も、どれも魅力的で大好きです(^^)