Art Inspirations

素人作家のメモ箱

アートと活字を愛するアマチュア作家が運営するブログ。

ジャンルを超えて、広義の「アート」から得た様々なインスピレーションやアイデアを文章で表現していきます。
絵画、彫刻、インスタレーション、音楽、ダンス、デザイン、ファッション、建築などなど。





谷川俊太郎展|人の心はことばに育てられる

詩人・谷川俊太郎さん。

ことばの匠、というとちょっと似合わない、優しくて穏やかで聡明な、ことばのご友人。

今振り返ると、絵本や教科書や、いろんなところに谷川さんのことばが散らばっていて、私は知らず知らずのうちに、この方のことばに育てられたのだなあと思う。

谷川俊太郎の『ことばあそびうた』が面白くて、工藤直子の『のはらうた』が楽しくて、その頃からちょっとずつ詩作の真似事を始めて。金子みすゞの『わたしと小鳥とすずと』が心を形作って、茨木のり子の『自分の感受性くらい』で雷に打たれて。

私がことばのファンになった発端は、思えば小説ではなくて詩だった。

そして生まれて初めて詩というものに触れたのは、なんとなく、谷川さんの詩だったような気がしてならない。

 

そんな私の心の育ての親のような、谷川俊太郎さんの「谷川俊太郎展」。

子供の頃の、丸裸の自分に出会うような気持ちで、行ってきました。 

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谷川俊太郎展|東京オペラシティアートギャラリー

 

 

まず初めに度肝を抜かれるのは、モニターが壁一列に並んだ、不思議な詩の部屋。

読み上げられている詩は『いるか』『かっぱ』『ここ』の三編。

「いるかいるか、いないかいるか…」のあの有名な詩が、

「い」「る」「な」「か」「い」「る」「か」

と、それぞれのモニターにひらがながひとつずつ映し出され、谷川さんらしきおじさんの声が文字を一音ずつ発音し、一音一音がランダムに、ちかちかと点滅する。

モニターの背景はそれぞれに色があったり、「い」と発音する声に合わせて音階のようなものも付随しはじめたり、まるで、五感ぜんぶを使って詩を体験しているかのよう。

その空間すべてが詩そのものみたいに、谷川さんの詩が、一語一語、一音一音、一色一色、響き渡る。

そして無作為に発せられる音が、ふとした瞬間に、聞き覚えのある「いるか」になったり、「とってちってた」という『かっぱ』の好きなフレーズになったり、何だか言葉を初めて発見した赤子のようにワクワク楽しい気分になる。

 

この演出には、すっかり魅了されてしまった。

詩は文字だけで作られているが、色があり、音がある。

それらが織り成されて物語になり、絵画になり、音楽になる。

詩というものは何なのか、答えがそこに示されていたような気がした。

 

 

さて、五感いっぱいに詩を浴びたあとは、いよいよ展示コーナーへ。

 

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ポスターにもあった『自己紹介』という詩が、棚や柱になって展示室じゅうに散らばり、谷川さんの持ち物や手紙や写真とあわせて、様々な詩がこれまた無作為に置いてある。

展示物もひとつひとつ味があって、ことばのフォントも美しい。

壁の裏側に貼ってある手書きのメモも、なんだか谷川さんの声を聴いているみたいに、穏やかで優しくて深い。

 

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散らばった詩を拾い集めるように読んでいくうちに、さっきの詩の演出の余韻も相まって、まるで絵画鑑賞をしているような、あるいは音楽を聴いているような、豊かな気持ちになっていった。

 

 

谷川さんは、そのお人柄もあるのか、ことばを駆使しているという感じはしない。

ことばを統べているのではなくて、ことばと「上手くつきあっている」という感じ。

クセのある親友のことを「全くしょうがない奴だなあ」と笑うみたいに、諦めや呆れや感謝や愛情を持って、長年つきあってきた方なのだなと感じた。

だからこそ、ことばのほうも谷川さんのことを信頼して、人見知りせずに生き生きと息づいているのかもしれない。

 

 

一通り展示を見終わって、一緒に連れていった母が追いつくのを待つ間、壁際に立って、広い展示室を眺めた。

そこで気付いたのが、詩を読む人たちの表情だ。

面白い詩を読む人の口角は自然と上がっていて、優しい詩を読む人の目は細く穏やかで、意味深い詩を読む人は眉間に力を入れて考え込んでいる。

中には、感動が顔に出るのをこらえているのか、泣いているような怒っているような、妙な顔になっている人もいて、人々の表情の豊かさに心を動かされた。

詩って、しあわせだなあ。

ことばって、すごいなあ。

改めてそう感じて、展示を見終わっても、その空間が名残惜しくてしばらく立ち尽くしてしまった。

 

 

 

人の心は、ことばに育てられる。

ことばには風景があり、物語があり、音楽があり、色があり、息さえもしている。

生きたことば。

だからこそ、ただの文字の羅列にすぎないはずのものに、人は微笑んだり涙を流しさえするのだ。

 

ことばは扱うものではなくて、ましてや操るものでもない。

いつか私の友人にもなってもらえることを夢見て、ことばに対して、真摯に、大切に向き合い続けていたいと思う。

 

 

 

谷川俊太郎さん、たくさんの素晴らしいことばをありがとうございます。

これからもお元気でいてください。

 

 

 

***

谷川俊太郎展」に展示された詩は、書籍でも購入することができます。

内容は同じで、赤・青・黄の3色。(なぜかぜんぶ欲しくなる)

私は一番文字が映える黄色を選びました(^^)

こんにちは

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子供の頃好きだった、谷川俊太郎さんの絵本たち。「あ、これもそうだったのか!」というものばかり。  

ことばあそびうた (日本傑作絵本シリーズ)

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