Art Inspirations

素人作家のメモ箱

アートと活字を愛するアマチュア作家が運営するブログ。

ジャンルを超えて、広義の「アート」から得た様々なインスピレーションやアイデアを文章で表現していきます。
絵画、彫刻、インスタレーション、音楽、ダンス、デザイン、ファッション、建築などなど。





生活空間がもたらす情報と思考のバランス

 

このGWで人の家にお邪魔する機会が何度かあり、ふと自分の部屋を見回したら、やたら情報が多いことに気が付いた。

 

私は元々部屋づくりが好きなたちで、しょっちゅう模様替えをしてインテリアコーディネートの真似事をしては、ああでもないこうでもないと理想の部屋を模索するのが好きだ。

その結果、壁には、好きな画家の絵とか、気に入ったイラストとか、英語の格言とか、工夫を重ねた額縁がいくつも並んでいる。

時々、見飽きてきたポスターを最近行った美術展のポスターに取り換えたり、心境の変化に応じて格言を変えてみたりして、ベッドに腰かけて部屋を見回し、ニンマリする休日がどうにも楽しくて仕方がない。

最近は、考え事や執筆のアイデアを取りこぼすまいとして、机周りの壁にも浸食してしまい、メモ書きや資料やパンフレットが所狭しと貼ってある始末だ。

さらにベッド脇の棚は常に積読本で溢れかえっていて、気分が乗れば、いつでも手あたり次第に乱読できるようになっている。

まさしく、執筆環境をレベルアップするべく築き上げた、私の城である。

 

そんな自慢(というか自己満)のマイルームなのだが、立て続けに色んな人の家を覗いたあと家に帰ってみたら、ちょっとくらくらしてしまった。

今までは意識しなかったが、やたらと情報が多いのだ。

ベッドに座れば、リラックスするどころか、頭はどんどんフル回転する。

あの額縁に掲げてある格言と似たようなテーマの啓発本、そういえばこないだ買ったんだったなあ、と思い出して積読本に手を伸ばそうとすると、その横に並んでいる別の小説や学術書に目がとまり、その時の興味関心が蘇って、それが壁の絵画にリンクしたりして、そこから思いついた執筆のネタが書かれたメモに視線が行き、ああそうだこれ書こうと思ってたんだ、あ、でもそういえばその前にこれもやらなきゃ、まずはこの作業をしてから…

といった具合で、気付いたらパソコンを開いてカタカタ。そしてまた何か思いついて走り書きをして壁にペタリ。

頭が休まるときがない。

私が目指した理想の創作部屋には限りなく近づいているので嬉しいのだが、これはちょっと、情報過多で脳には負担なのではないか。

特に、GWで完全にオフっていた脳には少々プレッシャーが過ぎたようで、何だか自分の部屋にいるのに疲れてしまった。

 

考えてみると、私たちが暮らしている空間は、普段気づかないうちに、人の行動に多様な影響を与えているようだ。

例えば美術館という空間は、創作意欲が刺激されるので、私の場合、美術館に行ったあとは不思議と執筆が捗ったりアイデアを思いつきやすかったりする。

図書館や書店に行くと、自分の知らないことがこんなにある!という事実を突きつけられて、謙虚な気持ちになると同時に、学習意欲がむくむくと湧き上がってくる。これはネット書店では実感できない、まさに空間がもたらす感覚だろう。

これはもっと広範囲の空間でも同様に言えることで、例えば広告や宣伝文句にあふれ返った街中を歩くと、自分が必要としているものがあれもこれもあるような気がして、急に欲求が膨らみ、意味もなく焦燥感に駆られたりする。

言うなれば、これらの空間が持つそれぞれの特性を、私の部屋は一挙に引き受けてしまっているようなのだ。

 

絵画もあれば文字もあり、やりたいこと、やらねばならぬことを意識下でリマインドしてくるメモまで並んでいる。

おかげで怠けることはあまりないし、こういうブログの執筆にはもってこいなのだが、何かがかえって見えにくくなってはいないだろうか。

「寝室に本や電子機器を持ち込むと安眠を妨げる」といった類の話は、最近雑誌でもテレビでもよく耳にする。

それと同じで、自分自身と向き合うことのできる唯一の空間であるはずの自室に、情報があふれかえっていたら、「自分を妨げる」なんてことになりかねない。

 

アートなり文学なり、好きなものを追求して、高めていくのは楽しい。

が、それ自体が目的になって、いつしかタスクになり、自分が本当にやりたいこと、本当に知りたいこと、本当に書きたいことを、見失うような生活になってしまったら本末転倒だ。

好きだからと言って、何でもかんでも取り入れるだけでは、どうやら見えなくなるものもあるらしい。

外の空間からもたらされる「情報」と、自分の内側にあるはずの「思考」を混同しないように、今一度、自分が暮らす環境を見つめ直してみるのも良いかもしれない。