Art Inspirations

素人作家のメモ箱

アートと活字を愛する作家の卵が運営するブログ。

ジャンルを超えて、広義の「アート」から得た様々なインスピレーションやアイデアを文章で表現していきます。
絵画、彫刻、インスタレーション、音楽、ダンス、デザイン、ファッション、建築などなど。





新・北斎展|世界に誇る日本絵師の虜になる

日本は言うまでもなく、世界でも知らない人はいない天才絵師、葛飾北斎

海外では“The Great Wave”という名で親しまれる『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』はあまりにも有名だ。

また、浮世絵だけでなく、コミカルでユーモラスな『北斎漫画』も、よく知られた作品かもしれない。

 

本日は、そんな有名どころの作品も含めた、圧巻の展示作品数を誇る「新・北斎展」へ行ってきた。

hokusai2019.jp

 

 

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まずもうポスターの絵面からかっこいい。

有名すぎる『神奈川沖浪裏』は、改めて見ても、やはりデザインがずば抜けて秀逸だ。

そびえたつ高波と、それに揉まれる小舟の間隔、そしてはるか遠くに鎮座する富士の位置。どこをとっても完璧。

また、北斎ブルーと対をなす『弘法大師修法図』には、法師と戦う赤鬼が描かれ、屈強な巨躯をねじったその姿は、まるで今にも動き出しそうだ。

『神奈川沖浪裏』とは対照的に、黒く塗りつぶされた背景が、赤鬼の波打つ肌を浮き上がらせ、よりいっそう気迫あるものにしている。

 

 

 

作品は、北斎の生涯を辿って順に展示されている。

北斎は、その長い生涯の中で、たくさんのペンネームを使ったことでも知られている。

春朗、宗理、葛飾北斎、戴斗、為一、画狂老人卍・・・

と名を変えながら、さまざまな方面で、類まれな才能を発揮していく。

その作品数と、どの時代も衰えない質の高さに、見る側は息をつく間もない。

 

 

私が個人的に圧倒されたのは、龍の絵だ。

龍はどの時期にも描かれるテーマだが、動物を描いた中でもとりわけ奥行きがあり、魂がこもっている。

 

宗理期の『玉巵弾琴図』は、雲間の闇の中に、下方から舐めるようにこちらを見据える竜が描かれており、全体に筆を振って散らせたような墨のしぶきが、重く垂れ込める雲の水気を感じさせ、そこに描かれていないはずの雷の光や音までも感じることができる。

卍時代の『富士越龍図』では、白く美しいなだらかな線を描く富士の向こう側に、遠く、黒煙が空をのぼり、その中を龍が身をくねらせて昇っていく。真っ白な富士の輪郭と、目に焦げつくような黒煙の龍との対比はすばらしく、ハッと息をのむ。

 

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『富士越龍図』

 

ほかにも、龍だけでなく、猿、狸、狐、虎、鬼、蝶、鶴、燕といったさまざまな動物を描いており、どれも緻密でリアリティに富んでいる。

動物の特徴を正確にとらえる観察眼と、それを筆や技法を使い分けて紙面に躍らせる表現力の高さに度肝を抜いた。

 

 

また、「カッコイイ」「スゴイ」だけではないのが北斎の魅力で、『北斎漫画』シリーズや、デフォルメされた落書きのようなラフ画が、これまた悶絶するほどかわいい。

思わず笑ってしまうようなふざけた顔を並べたものや、ひょっとこ踊りのように滑稽なしぐさをする江戸っ子をコミカルに描いたシリーズなど、さまざまだ。

超がつくほどの天才絵師なのに、可笑しくて不真面目な(でもくやしいほど上手い)絵を描くものだから、ますます北斎という小粋な画伯の虜になってしまう。

中には、刀を呑んだり蜂の大群を口から出したり手から水を出したりと、現代でいうマジシャンのような離れ技をする人も描かれていたりして、全く時代の古さを感じない。

また、私が特に気に入ったのは、一筆書きでさまざまな所作をする人々をデッサンした作品で、これはもう秀逸すぎて笑うしかなかった。

たった一本の曲線で、これほどまでに人間の何気ない所作の特徴を捉え、表現するとは、まさにおそるべし。

一筆書きでの画力の高さは、私の大好きな画家ピカソも負けていないが、北斎のほうが、「無心」(しゃがみこんで読書に没頭している様子)や「放屁」といったタイトルもあり、妙にふざけていて愛らしい。ニクイ。

 

 

 

そして北斎といえば、忘れてはならないのが、やはり代表作『富嶽三十六景』シリーズだろう。

『神奈川沖浪裏』をはじめどれも有名すぎる作品ばかりだが、中でも、『駿州江尻』と『東都浅草本願寺』には嘆息した。

 

『駿州江尻』は、道行く人々を突風が襲い、紙束と笠が風にさらわれて飛んでいく様子が描かれている。

細木がしなり、葉を散らして、びゅうと一瞬のうちに風が過ぎ去っていくさまは、実にリアルだ。

紙束と笠をさらわれてしまった人の驚きと焦りまで手に取るように感じられ、彼の二の舞にはなるまいとして腰をかがめ、必死に笠を押さえる人々のしぐさもいじらしい。

そして、風にもてあそばれる人間を見下ろし見守るように、はるか向こうに、微動だにしない一筆書きの富士の輪郭が、すっくと見える。

なんだか自然の中に生きる人間の暮らしが愛おしくなるような、物語のある絵だ。

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富嶽三十六景 駿州江尻』 

 

 

『東都浅草本願寺』は、なんといっても構成美がすばらしい。

本願寺」というだけあって寺を描いたものだが、その全体像は見えず、ただ寺の屋根部分のてっぺんだけが、画面右側に見切れた状態で配置されている。

中央には、雲間を越えた遠くのほうに、ちょうど寺の屋根のなだらかな曲線をまねるようにして、青い富士山が堂々と据えられている。

そしてその富士の手前を、凧が高々と気持ちよく昇っている構図だ。

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富嶽三十六景 東都浅草本願寺』

このアングルが本当に見事だ。

北斎が今の時代に生きていたら、さぞかしすばらしい写真家になったことだろう。

 

 

 

今回の北斎展で、私はまんまと、このスゴくてかっこよくてかわいい北斎作品の虜になってしまった。 

表現力をとっても、デザイン力をとっても、北斎の絵はこれ以上改良しようのない、極められたものであるように思う。

だからこそ、今も決して、その魅力は薄れることがない。

むしろ、今の時代にあっても新鮮に映るほどだ。

優れた芸術は普遍的なものであるということを、身をもって知ることができた。

 

 

ちなみに北斎は、90歳にして画風を改め、100歳以降に絵画の世界の改革を目指そうとしていたのだという。

残念ながら90歳にこの世を去ったが、あと10年あれば真の絵描きになれたのに・・・と悔やみながら息を引き取ったのだとか。

どこまでも驚かされるスーパー爺である。

 

葛飾北斎は、間違いなく、日本が世界に誇る美術界のバケモノだ。

 

 

 

 

 

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