自慢ではないが、私はかなりの方向音痴だ。
入り組んだ道になると一体自分がどこから来たのかすぐに分からなくなるし、「こっちかな?」とあてずっぽうで歩くと、だいたい目的地とは逆の方角に歩き出している。
だから街を歩くときは、GoogleMapがないとどこにも行けない。
万が一、連れもいない上に電池が切れて地図が見れなくなろうものなら、それはもう一大事で、不安でどきどきするわ汗はかくわ、ちょっとしたパニック状態に陥ってしまう。
そんな私にとって、京都という街はやさしい。
言わずもがな、通りが碁盤の目になっていて、地名も「東西の通り×南北の通り」でできているので、通りの名前さえ覚えてしまえば、今自分がどこにいるのか、どっちへ向かえばいいのか一目瞭然なのだ。
私は学生の頃に京都に住んでいたので、シーズンで人の多い観光スポットはあえて避け、ぶらぶらとスローな観光をする。
古民家の混じる住宅街を散歩して、マイナーな小さい寺院や神社が現れるとふらっと入って、また別な路地を見つけると気まぐれにそっちの道へ入っていく、という具合だ。
気になる書店があれば覗いてみればいいし、歩き疲れたら、目に入ったカフェにふらりと入ればいい。
仮に目的地があったとしても、そこまでの道のりをどう行くかは、ちょうど数学の確立の問題みたいに何通りもあるので、「なんかこっち面白そう」「大通りは人が多いから一本隣の道で行こう」と気分に任せて歩けるのが楽しい。
だから、いつもならGoogleMapに目を凝らしながら進んでいく私でも、京都を歩くときは、しばらくスマホはポケットのなかにおさめて、風景を味わう余裕ができる。
京都は、美しい街だと思う。
例えば、まだ昼間で店支度中なのか、ひっそりとした祇園界隈の通り。
高台寺公園で、シャボン玉で遊ぶ家族と、しゃがみこんで幼い少年と気さくに話す人力車のお兄ちゃん。
老舗の店先に咲く、綺麗に手入れのされた花。
裏道に潜む、趣のある暗がり。
紅葉を愛でる人々の脇で、黙々と落ち葉を集めるおじさんの仕事の跡。
夜景や建造物や、勇壮な自然の絶景などとは違う、こまやかで優しい、人の暮らしの美しさ。
日常のなかに生まれては消えていく、ハッとするような一瞬の奇跡。
あたたかい人間の暮らしが築いた、道や建物や道具の趣き。
そういうものが、京都の街中には、謙虚な姿でいたるところに潜んでいる。
路地に迷い込み、さまよい歩くうちに、それらの「美」をふと見つけたとき、私は方向音痴で良かったとさえ思うのだ。
日本の街は、何気ない日常の風景にこそ、美しさが宿る。
つまりそれは、脇道に逸れて迷子になった人にしか、見つけられない「美」がたくさんあるということ。
忙しい東京の暮らしでは、目的地への最短距離が重要視される。
それでも時々は、GoogleMapを閉じて、迷子の特権を使ってみるのはどうだろう。
見過ごしていた日常のなかに、ハッと息をのむような美しさを発見できるかもしれない。
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先日京都へ行った際に、ふらりと立ち寄った書店さん「ホホホ座 三条大橋店」。
聞けば、昔の「ガケ書房」はいま「ホホホ座」に生まれ変わっていて、京都のあちこちに店舗ができているのだとか。
平積み(といっても1冊しかなかった)されていて、思わず買ったこの本が、とっても良かったです。
台湾男子がこっそり教える! 秘密の京都スポットガイド―左京区男子休日
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有名なお寺でも神社でもでもないけれど、平凡で味のある京都の風景がたくさん詰まっています。