「小説」は文字だけで作られるものだが、「本」となると話は変わってくる。
絵本でなくとも、子供向けの本には挿絵が入っているし、たとえどんなに有名な文豪の作品であっても、表紙には必ずといっていいほど何かしらの絵かデザインが施されている。
いくら活字中毒の人でも、装丁なくして本は語れないだろう。
この休日、ついに本棚を新調したので、手持ちの本を片っ端から整理した。
少し前に実家を整理した際に、まとめて自宅に送っていた段ボールから、大量の本を取り出しては立ち読みし、遅々として本棚に並べていたときだ。
小さい頃に夢中になって読んだ海外のファンタジー小説が出てきて、思わず声を上げた。
ご存知の方もいるかもしれないが、『ダレン・シャン』というバンパイアの少年の話である。
- 作者: ダレンシャン,田口智子,Darren Shan,橋本恵
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2001/06/01
- メディア: 単行本
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単行本にして計十二冊というなかなかの大作で、登場人物たちのキャラクターもさることながら、後半になるほどかなり壮絶で手の込んだ物語である。夢中になりすぎて、風邪をひいて学校を休んだ暇つぶしのつもりが、一気に数冊読みふけってかえって熱を上げたこともあったほどだ。とにかくハマりにハマった。そのせいで、邪魔でしょうがない十三冊もの単行本をどうしても今まで捨てられなかった。
しかし、捨てられなかった理由がもう一つある。
絵が、どれもとにかく素晴らしいのだ。
絵を担当されていたのは、田口智子さん。
写真と見紛うような精緻な水彩画を描く方で、ろうそくや時計、バラ、ナイフなど、物語とリンクした様々なモチーフが描かれている。時々ポストカードやカレンダーなどもついていて、それがまたあまりに素敵なので未だに捨てられない。子供の頃から、彼女の絵を壁に貼ったり額縁に入れたりしていたことを思うと、何だか感慨深い。
さらに表紙のみならず、作中の重要な場面では、不意打ちで1ページ丸々使った挿絵がどかんと現れたりして、それがまたいっそう心を揺さぶったものだ。
まるで誰かの余命を暗示しているかのような、頼りなげなろうそくの光。
息づかいまで聞こえてきそうなオオカミたちの毛並み。
主人公がすさまじい運命に直面したショッキングな場面で、暗闇からこちらを睨んでいた黒ヒョウの激しい目。
ある人物の悲しい死に打ちのめされ、ページをめくったところに現れる一本のバラ。
物語の世界観にのめりこむように夢中になり、文字通り熱が出るほど興奮したり、笑ったり、手に汗握ったり、涙を流したり・・・。あの経験は、未だに昨日のことのように覚えていて、それはきっと、あの絵なくしては得られなかったものだと思うのだ。
絵というものは、なにも仰々しい美術館にしかないわけではない。
誰もが一冊は持っているであろう本の表紙にちゃっかり居座って、知らぬ間に私たちの心を動かす。
一般に読書と呼ばれている行為は、実は絵画鑑賞だったりするかもしれない。
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余談だが、ダレン・シャンシリーズの装丁はかなり手が込んでいて、中表紙も日記帳のようになっている。それが、物語が進むにつれ、しみや破れが描き足されてどんどん汚れていくのも楽しい。なぜ日記帳なのかは読んでのお楽しみ・・・